アップロード300話達成・記念特別編集



第12話  「さらば!七曲署」





 
七曲署・取調室
  小田の供述を元に清文が七曲署に呼び出され、取調室で取り調べを受けることになった。
その真偽は、清文が坂口・小田と顔見知りであったかどうかだ。取り調べは野崎刑事が行い、マイコンが側で調書を取っていた。
清文 「確かに、先週の金曜日、銀座のバーで坂口さんと小田さんと会いました。昼間坂口さんから電話があって、竹内さんに紹介された是非一度会って欲しいと頼まれたんです。」
野崎刑事 「何故それを、一昨日言ってくれなかったんですか!?。」
清文 「別に事件とは関係ないと思ったんです。」
  野崎刑事 「あっ、うぅーん。」
  言われてみれば清文の言う通り、野崎刑事には返す言葉が無かった。
その時、トントンと取調室のドアがノックされ、篁係長が取調室に入ってきた。
  野崎刑事 「あっ、係長。」
  篁係長 「ご苦労様。後は私がやるわ。」
  野崎刑事 「はっ!。」
  取調室に入ってきた篁係長は、野崎刑事が座っていた清文の前の椅子に座った。立ち上がった野崎刑事は言われるまま取調室を出て行こうとしていた。調書を取っていたマイコンも取調室を出ようとしたが、篁係長の横で立ち止まり篁係長を見た。恐らく自分も席を外したら良いか確認したかったのだろう。それに気づいた野崎刑事はマイコンに声を掛けた。
  野崎刑事 「マイコン!。」
  マイコン 「はい。」
  マイコンは野崎刑事に諭されたように答えると、清文の方を見ている篁係長に向かって一礼し、野崎刑事と共に取調室を出ていった。
取調室で向き合う親子。篁係長が清文を直視する。清文は照れくさそうに笑みを浮かべると目線をそらした。
  篁係長 「何を隠しているの、清文。」
  篁係長の第一声は、予想外の厳しい質問だった。自分の思いと違う言葉を掛けられた清文は、再び篁係長に目線を向けた。その時、清文の表情は厳しかった。
  清文 「えーっ。」
  篁係長 「貴方が何かを隠している事ぐらい、母さんには分かるわ。それを話してちょうだい。」
  清文 「別に隠している事なんかありません。」
  そう言うと、清文は再び目をそらした。
一方の篁係長は、清文の様子をつぶさに見ていた。
  篁係長 「じゃあ、何故私の目を見ないの!?。」
  そう言われた清文は、なんとか篁係長の方に目線をあわせたのだが・・・。
  篁係長 「貴方、本当に被害者と偶然会ったの?。」
  そう篁係長に聞かれると、清文はまた視線をそらすのだった。
  篁係長 「違うのね。本当はどういう関係なの。」
  清文 「いえ、本当に偶然に会ったんです。」
  篁係長 「正直に話しなさい。そうすれば事件が解決するかもしれないのよ。」
  清文 「僕は何も知りません。知らないんです。」
  清文は激しい口調で篁係長に答えた。今度は目線をそらさず、身体を前のめりにして・・・。
取調室はその後向き合う親子の姿と、沈黙が流れた。
 
捜査一係室・係長席前
何も進展しなかった清文の取り調べ。ブルースとDJを除く刑事たちは一係に戻り、篁係長の元に集まっていた。
野崎刑事 「こりゃ、益々分からなくなりましたな。息子さんは一体、被害者(ガイシャ)とどう繋がっていたんでしょう?。」
篁係長 「分からないわ。ただ・・・、あの子はもう絶対に本当の事は言わないでしょうね。私自身、甘えがあったのかもしれないわね。母親だから、その内必ず話してくれるだろうって。でも、とっくにあの子は私から離れてしまってた。」
  マミー 「係長。」
  篁係長 「そんな事に今ごろ気づくなんて、刑事失格ね。」
  そう話す篁係長の目には、うっすらと光るものがあり、その目はどこか遠くを見つめていた。
  篁係長 「野崎さん、この段階で留置したら人権問題になるでしょ。とりあえず今夜は返して下さい。」
  野崎刑事 「はい。」
  篁係長 「但し、厳重な張込みは続行。西條さん、逃げようとしたら即刻逮捕して下さい。」
  ドック 「分かりました。」
  篁係長の指示を受け席を立つドック。それにあわせて他の刑事たちも再び捜査に戻っていった。
刑事たちが捜査に向かう姿を見送る篁係長は、刑事たちが皆部屋を出て行くと、一瞬天井を見上げ、潤んだその目頭を押さえるのだった。
 
小田の事務所ビルの前に停車中の覆面車
  喜多刑事とブルースは、小田の事務所があるビルの前に車を停車し、夜になっても張込みを続けた。
  喜多刑事 「清文が何かを隠している限り、殺しの容疑も晴れない。こうなったら徹底的にやるしかないな。」
  ブルース 「ええ。たとえ、まあ、それで・・・、おばさんの首が飛ぶようなことになっても・・・。」
  喜多刑事 「あぁ、俺たちは刑事(デカ)だからな。」
 
喜多刑事とブルースの言ったその言葉が示す通り、刑事たちは徹底的に捜査を行った。井川刑事が・・・、ドックが・・・、マイコンが・・・、マミーが・・・、DJが・・・、そして野崎刑事までもが深夜、清文のアパートの前で張込みを続けていた。
一方一係では、刑事たちの努力に篁係長も決して帰ろうとはせず、一人黙々と仕事を続けていた。
一係の時計の針は、深夜の2時をまわっていた。
 
七曲署、捜査一係室内
  窓からは冬の朝日がこぼれる。時計の針は午前6時を過ぎたところだ。
机の上で眠りに就いていた篁係長は、うたた寝していた自分に気づき目を覚ました。すると見知らぬコートが背中から、寒さをしのぐため掛けられていた。そして部屋の中にいる人影に気がついた。
  篁係長 「誰!?。」
  篁係長 「あなた・・・。」
  そこに立っていたのは清文の父であり、篁係長の別れた夫・青木氏であった。
  青木 「おはよう。今朝、君のマンションに電話したら居なかったんでね。直接ここへ来たら、おもての警官が通してくれたんだ。」
  篁係長 「だったら起こしてくだされば良かったのに。」
  そう言いながら篁係長は席を立ち、掛かっていたコートを腕に持ち替えると青木氏の前に立った。久し振りの再会であった。
  青木 「うん、いま、まあ、そうも思ったんだけどね。あんなりぐっすり眠っていたんでね。いや、おかげで10年ぶりに君の寝顔を見させてもらったよ。」
  篁係長 「失礼ね。でもどうしてこんなに早く?。」
  青木 「うん、9時に成田に行かなきゃならないんだ。大臣のお供でね。」
  篁係長 「あぁ、清文に聞きました。」
  青木 「その清文のことで来たんだけど・・・。いったい奴に、何の容疑が掛かってるんだ。」
  青木氏の質問に篁係長は下を向いた。
  篁係長 「お茶でも入れましょう。」
  そして久し振りの和やかな再会もままならず、篁係長は青木氏の目の前から離れていき、持っていたコートをドレッサーに掛けるとお茶を入れ始めた。
  篁係長 「貴方、濃いのがお好きだったわね。」
  青木 「いや、薄いのにしてくれないか。いや胃の具合が悪くてね、美沙子に言われて2年ほど前から薄いのにしたんだ。・・・うん。」
  篁係長 「そう・・・。」
  自分では知っていたかつての夫の好み。しかし無情にも、過ぎた時間は知らない世界を演出していた。それだけだろうか?。今の婦人の勧め・・・、篁係長は少しの淋しさを感じた。
  二人はソファーに座り直し、事件の件で話し合った。そして篁係長は一枚の写真を渡した。殺された男の写真を・・・。
  青木 「田坂圭吾?。」
  篁係長 「はい、聞いたことありません?。」
  青木 「いや。」
  篁係長 「これがその当時の写真です。」
  青木 「いや、見たこと無いな。」
  もう一枚、ドックが被害者の自宅で見つけた昔の写真。まじまじと2枚の写真を見比べたが、青木氏の中にはまったく思い当たる人物がいなかった。
そしてふと、手元の腕時計を見た。
青木 「あっ!。いやー、もう行かなくちゃ。」
青木氏の出発の時間が迫っているようだ。青木氏は慌てて席を立った。そしてバツが悪そうに篁係長に言うのだった。
青木 「今は仕事のことよりも家族の方が大切なのに。」
  篁係長 「私に、任せて下さい。結果がどう出ようと、必ずきちんとした形で事件を解決してみせます。それが・・・、私の仕事ですから。」
  青木 「ますん。」
  子供のことが心配と言いながらも仕事を優先しなければならない立場。青木氏はすまんと一言いったあと、深々と篁係長に頭を下げるのだった。
 
一係部屋の前の廊下
  扉を開けて青木氏が一係を出てきた。そしてその後ろから篁係長が。
青木氏は部屋を出てコートを羽織ると、篁係長の方を振向き深々と一礼した。それに、篁係長も無言で礼を返すのだった。篁係長は立ち去っていく青木が階段へ消えるまで見送るのだった。
 
小田の事務所ビルの前に停車中の覆面車
  喜多刑事とブルースが張り込んでいる小田の事務所の前が騒がしくなってきた。次々と小田の従業員たちが走って事務所に入っていくのだ。張込み中の二人は、しっかりとそれを見ていた。
  ブルース 「喜多さん、何んかありますな、こりゃ。」
  喜多刑事 「ああ、そろそろ動き出しそうだな。」
 
坂口画廊の事務所前
  一方、もう一人の容疑者・坂口も、自分の事務所・坂口画廊にいつも通りタクシーで出社してきた。
その後ろには、昨夜からピッタリと坂口をマークしていたマミーとDJがいた。
 
東亜証券オフィースビル前の公衆電話。
  また単身、徹夜で清文を張込んでいた野崎刑事も、会社に出社していく清文を追って、清文の勤務先・東亜証券のビルに来ていた。
野崎刑事は清文が間違いなく会社に出社していく姿を見届けると、近くにあった公衆電話から一係にいる篁係長に報告をするのだった。
  野崎刑事 「あっ、おはようございます。ご子息は普段通り出社しました。」
  篁係長 「そう、ごくろうさま」(電話の声)
  野崎刑事 「坂口画廊と小田の動きは・・・?。」
 
七曲署捜査一係室
  篁係長 「まだだけど。嵐の前の静けさって感じね。・・・はい、・・それじゃ。」
  野崎刑事の報告を受け受話器を下ろしたその時、一晩中捜査を行っていた井川刑事とマイコンがドアを開け入ってきた。
  井川刑事 「係長!、小田について妙な噂を耳にしました。奴はどうやら、絵の偽造に手を出していいるようです。」
  篁係長 「絵の偽造?。」
  井川刑事 「はっ!。」
  マイコン 「有名な画家の絵を偽造して、金持ち連中に売りさばいているっていう噂があるんです。」
  篁係長 「井川さん、その絵の偽造に協力してたのは・・・。」
  井川刑事 「坂口だと思います。いやむしろ、坂口の方が主犯かもしれません。」
  マイコン 「そして、実際に偽絵を描いていたのが元画家の竹内なら、しょっちゅう店を閉めていた訳も解ります。」
  篁係長 「他に収入の道があったのね。すると坂口画廊から絵を運び出したのは。」
  井川刑事 「その絵も、偽物だったのではないでしょうか?。」
  篁係長は席を立ち、井川刑事が調べてきたことを無線を通して、現場の他の刑事たちに伝えるのだった。
 
坂口画廊前のマミー・DJ覆面車
  坂口画廊前で張り込んでいたマミーとDJにも、井川刑事の捜査結果が伝えられた。
  マミー 「了解。」
  DJ 「絵の偽造か・・・、だけど肝心な息子さんとどうに繋がってんですかね。」
  マミー 「つまり、彼はエリート商社マンでしょう。」
  DJ 「うん。」
  マミー 「お金持ちをいっぱい知ってるわけよ。」
  DJ 「じゃ、偽絵を売るのに手を貸してた。・・・いやー、まさかな。」
  マミー 「はぁーっ。」
  その時、アタッシュケースをぶら下げた坂口画廊の社員と疑わしき人物・坂口が坂口画廊から出てきて、ビルの前に止めたあった自家用車に乗り込んだ。
  DJ 「ほうれ、動きだしたー。」
  走り出す坂口らを乗せた車。マミーたちは、その坂口の車を追った。
 
小田の事務所の前
  一方、もう一人の疑わしき人物・小田も動き出した。5人の部下を従え事務所から出てきた小田は、部下と共に事務所の一階に駐車していたワゴン車に飛び乗ると、車を走らせて行った。
昨夜から小田を張っていた喜多刑事とブルースが、その小田たちを追った。