第19話  「ライフルが叫ぶとき」





太陽にほえろ!シナリオ小説・第2巻「復讐鬼の足跡」よりの転載

【2/2】

松山邸の外には。マカロニが張り込んでいた。したがって、高野を坂下に待たせておいて、様子を探りに来た有田は、たちまちマカロニの張込みに引っかかった。
「ちょっと君・・・。」
表門をたしかめ、石積みの高塀に沿って裏手にまわろうとしたところを、マカロニは呼びとめた。
「誰だ。あんたは?。」
有田は肩をそびやかして、横柄に立ち止まった。マカロニは警察手帳を示して、
「こんな夜更けに、屋敷の中をうかがったりするのはどういう訳だ?。」
と鋭く詰問した。
「あっしがこの屋敷を伺ったて?。」
「そうだ、こっちはずっと見張っててたんだ。」
「知ったことかい!。」
有田はいきなりマカロニを突き倒すと、一目散に走り出した。だが、鍵の手の道には、石塚刑事がいた。「畜生!。」
と起き上がったマカロニの声に、道に飛び出して来ざま、石塚刑事は有田へ組みついた。そこへマカロニが駆けつけたので、有田はすぐに観念してしまった。
「有田、ネタはすっかりあがっているんだぞ。」
手錠をかけながら、石塚刑事がきめつけた。
「それ、どういう意味だい?。」
「おれは今日の午後、錦糸町のヌード・スタジオでキスぐれのサブに会って、お前のことを吐かせたんだ。有田、お前は高野の舎弟分だそうじやないか。」
「ちぇっ、サブの奴が!。」
有田は舌打ちすると、不貞腐れて、どうでも勝手にしろというように歩き出した。
「マカロニは残って、見張りを続行してくれ。」
石塚刑事はそのまま、有田を七曲署へ連行した。


捜査一係室には、藤堂係長が部下たちからの連絡を待って、ずっと詰めきりだった。有田は取調室へ入れられた。
「前もって言っておくが、これはスリやかっぱらいとは事件が違うんだ。看守を殺し、乗用車のアベックに乱暴をはたらき、そして今朝は小岩の不動産屋夫婦を殺害した脱獄犯をわれわれは追っているんだ。」
山村刑事は有田と向かい合うとタバコを勧めてから、一語一語を刻み付けるように言った。
「だから逮捕の時間が長引けば長引くほど、犯行はエスカレートする。相手は狂った野獣なんだ。」
「旦那はあっしに何が聞きたいんですかい?。」
「高野の舎弟分の縁を頼って、お前のところへいったろう?。昭明興業の安達も、高野とは関係があったはずだ。いいか有田、お前がしゃべらないとなれば、おれたちはこれから、安達の自宅へ乗り込んで奴の口から聞き出すより手はない。」
「親分から、何をですかい?。」
有田は煙を長く吐いた。
「高野か何をしに昭明興業を訪ねていったかをだ。われわれがいま、不眠不休で心配しているのは、罪のない都民にとばっちりがおよぶことだ。現に小岩では、すでに林さん夫妻が殺されている。」
「旦那、それだったら、もう心配はいりませんよ。」
「なに?。」
高野の兄貴は、もうこのうえ他人に迷惑は掛けないっていってるんです。兄貴は、明日中にはきっと捕まりますよ。
「お前に、どうしてそれがわかる?。」
山村刑事は机へ半身を乗り出していた。
「松山哲司を知ってるだろう?。」
「五光観光の社長でしょう。あいつは兄貴をダシに、土地成金でぶくぶく肥った大狸ですよ。」
「その松山を、高野はなぜ狙ってるんだ。」
「あっしがいくら舎弟分でも、そこまでは分かりませんよ。けど、行きつくところまで行ったからには、兄貴はもうこれ以上、他人には迷惑掛けないってことは本当です。」
「バカヤロー、迷惑はこうしてかけっ放しじゃないか。本庁をはじめ各署とも、高野を追って血眼になっているんだ。おい、有田、安達は高野にハジキを渡さなかったか。」
「・・・??!。」
「おい、手間をとらせるな。死刑を覚悟の脱獄犯が、ハジキを持ったらどんなことをするか、お前にも分かるだろう。」
山村刑事は、激昂して思わず有田の胸倉へ手をかけようとしたが、ハッと気がついて引っ込めた。だが、机へ置いたその両手は、ふるふると振えていた。机が振動して、有田の心を揺さ振った。
「旦那、高野の兄貴はハジキを持っています。」
「弾はいくつ渡したんだ。」
「ワルサー5連発、弾は4ケース。」
「・・・・・!。」
山村刑事の頬がひきつれた。


その翌朝、藤堂係長は松山哲司の代々木邸を訪ねて、応接室で松山と向かい合った。
「実は、昨日は事務所のほうへ野崎刑事がみえたんですが、なぜそう私の事を心配されるのですのか、正直いって迷惑な話ですよ。わたしがなんで高野とかいう男に、狙われなきゃならないのか、理由は一つもないんですからね。」
狡猾な松山は、あくまでも高野とは無関係だと言い張るのである。
「松山さん、警察をそう甘く見ない方がイイナ。あんたと高野の関係は、一応調査済みなんですよ。」
「そ、そんな・・・。」
「いや、だからこそ、こうやって僕たちは心配しているんです。松山さん、高野が殺した高利貸しの持っていた土地一切は、あんたの所有になりましたね。そして、それを元手に現在の財をつくりあげたんじやありませんか。」
「あ、あの土地は、わたしに譲渡されたものです。正式な譲渡書類もありますよ。うちは国の許可をもらってやっている商売です。うしろ暗い取引はありませんよ。」
「それじゃなぜ、高野はあんたの命を狙おうとしてるんでしょうね。」
「えっ、わたしの命を・・・!。」
「ハッキリそう言って、拳銃を所持しているそうです。ともかく、行動はくれぐれも気をつけられた方がいいですね。」
藤堂係長はソファから腰をあげた。命を狙われていると聞いて、松山の表情には確かに反応が認められたが、美貌の若い妻・由紀と恵子の笑い声が奥から聞こえてくると、松山は何かいいかけた口を再び閉ざしてしまった。


「なんてズルい野郎なんだ!。」
代々木へ張り込みへ出る前、室内では石塚刑事と顔をあわしてマカロニは、憤懣やるかたない口調で言った。
「それで最後まで松山は虚勢をはってるんですか。」
「バカな奴だ。いつまでもシラをきっていると墓穴を掘るぞるねえボス。」
石塚刑事は藤堂係長へ向き直った。
「松山の妻・由紀婦人は、なんでも奴が金のものをいわせてもらっぬた女房だそうじゃありませんか。」
「うむ、ちょっとした名門の出ってことかな。日東重機の専務、泉川直彦の末娘だからな。奴は旧悪をバラされることを必死におそれてるんだ。」
「名門なんか糞くらえですよ。」
マカロニがまたしても不平をぶっつけた。
「まあ、そうぶりぶりするな。松山はズル賢いやつでも、家族は何も知らずにいるんだ。安全は保証しなければならん。」
藤堂係長にたしなめられて、マカロニはしぶしぶ署を出ると、愛用のオートバイで代々木へ向かった。たが、この配慮は手後れといわなければならなかった。


松山が出勤したあと間もなく、幼稚園へ通う恵子の手を引いて、お手伝いのユキ子が送って行こうとしたところを、邸内の植込みの中にひそんでいた高野に、とつぜん襲われてしまったのである。 「声を立てると、ぶっ放すぞ!。」
恵子を左腕に抱え込んだ高野は、ユキ子へ拳銃を突き付けて、家の中へ連れ戻し、由紀婦人をも応接室へ閉じ込めていた。
「奥さんやこの子には、何の恨みもねえが、こうでもしなけりゃ、松山の野郎に復讐することは出来ねえんだ。」
高野は、恵子の胸へ拳銃をあてがって、由紀婦人へ凄んだ。
「あなたは、松山に復讐を?。」
「そうだ。おれが刑務所を脱獄したのは、松山に復讐するためだったんだ。さあ、面倒な話はあとまわしにして、奥さん、あんたが五光ビルへ電話をしな。娘の命を助けたかったら、小細工をしねえで、すぐに自宅へ引き返してくれとな。」
「あ、あなたは、主人をどうするつもりなんですか?。」
「くどいことは訊きっこなしだ。電話するしかねえか、時間の無駄をすると、俺はほんとに怒るぜ。」
高野は血走った目をギラギラさせた。由紀婦人はすでにニュースで高野の凶暴性を知っていたから、いうことにただ従うほかはなかった。卓上電話へ寄って、ダイヤルをまわすと、
「はい、社長さんはいまお着きになりました。」
と交換手が答えた。
「早速、社長室へ。」
由紀婦人は、たたみかけるように言った。


電話で人質の報せを聞いた時、松山哲司は蒼くなった。自宅へひきかえすまえに、あわてて七曲署の藤堂係長へ事情を告げた。
「なんとも申し訳ない事をしました。確かに、僕は高野宏に恨まれても仕方がないことをしてきているんです。せめて高野の女、喜見子の病気の面倒だけでも・・・。」
「松山さん、今更悔やんでみてもはじまりません。いま直面している問題は、どうやって恵子ちゃんや、奥さんたちを無事に助けだすかです。」
「僕が引き返さなければ、高野は恵子や家内たちを殺すでしょうか?。」
「さあ、それはなんともお答えできませんな。しかし、ご存知のように、高野はすでに三人殺しています。捨て身でかかっていることは間違いありません。」
「ともかく、心配ですから、僕は・・・。」
「ちょっと待って下さい。山村刑事をそちらへ急行させます。万一に備えて、松山さんには防弾チョッキをつけてもらいましょう。」
「あ、ありがとうございます。」
松山は防弾チョッキと聞くと、嬉しさに声を詰らせていた。


山村刑事を五光ビルへ向かわせた後、藤堂係長は石塚刑事を呼んだ。室内には、ほかに誰もいなかった。
「ゴリさんに、頼みがある。」
藤堂係長は、目の前に立った石塚刑事へ太い眉をあげた。
「はあ・・・・・?。」
「この際だ、決断しなければならん。」
「決断ですって?。」
「うむ。ゴリさんに使ってもらいたいんだ。山さんに打ち合わせておいたが、松山が玄関の扉を開けると同時に門の外から、マカロニが一発空砲を鳴らす。そうすると、高野は狼狽して、玄関へ飛び出してくるか、さもなければ応接室の窓からこっちをうかがうだろう。そこをゴリさんにやってもらいたいんだ。」
「・・・・・!。」
「気に染まぬ役だろうが、是非、引き受けてくれ。」
「わかりました。しかし、そううまくこっちの計算通りにいくでしょうか。例えば、思うツボどおり出てきたとしても、高野が人質の恵子ちゃんを楯にしていたら?。」
「それでもやってもらいたい。高野の顔を狙えば、恵子ちゃんは無事に取り戻せる。僕はゴリさんの腕ほ信じているよ。」
「やりましょう、ボス!。」
「小の虫を殺して、大の虫を生かすって諺がある。ゴリさんは今、林勇造夫婦の独り息子だと思ってくれ。罪もなく殺された両親の仇をはらすんだと・・・。」
藤堂係長は煙草ほ二本くわえて火をともすと、一本を石塚刑事の手へ渡した。


それから40分後、脱獄犯・高野宏は、玄関から恵子を人質に出てきたところを、石塚刑事りライフルで射殺された。
「ゴリさん、これ。」
マカロニが、気をきかして花束を用意していた。石塚刑事はそれを受けとると、高野の死体へ駆け寄って、頭部の傷口へそっと置いた。三月の午後の空は、晴れわたっていた。高級住宅街である。呼べば木魂がかえってきそうな静寂が、あたりを占めていた。
「高野、お前は魂だけでも、喜見子さんの元へ帰れよ。」
石塚刑事は、死骸の顔へハンカチをかぶせながら言った。


孤独な幸薄い脱獄犯が射殺された。鋭い銃声を聞いた者は数多くいたが、冥福を祈ったものは数少なかった。