第 3 話  「あの命を守れ!」





太陽にほえろ!シナリオ小説・第1巻「孤独なライフル銃」よりの転載

【1/2】

死ン宿
詩ン宿
新宿をこう呼ぶ人がある。この場合、死は犯罪を意味するものだ。犯罪と詩情が同居した街ということだろう。たしかにこの言葉はあたっている。マカロニ(萩原健一)はそう自分にうなづいていた。その日、彼は非番で、午後から下宿を出ると、なんとなく繁華街を歩きまわった。こんな状態がマカロニは好きだった。
若い彼には、このなんとなくの自分に、夢と希望が託せるからだ。もしかしてそうした状態の中で、恋に出会ったり、明日が待ち遠しくなるような、人生の幸運に恵まれないともかぎらなかったからだ。だが、現実はそう甘くはなかった。なんとなくのぶらぶら歩きは、あくまでも、なんとなく終点に到達してしまうものだった。
仕方ねえ、映画でも観るか!。
マカロニの休日は、結局そこに落ち着いたが、ずらりと並んだ映画館の看板を眺めているうちに、どれも気乗りがしなくなって、噴水の囲いに腰かけてしまった。こうなると、行くあてもなく、恋人や友達もない休日は、ひどく孤独だった。
やっぱりこの街は俺にとって死ン宿か!。


やる瀬なげな視線が、このときふと一点にとまった。映画館の前で、三人のやくざ風の男が、若い男を取り囲んで、なんか因縁をつけているのである。ヤクザ達は、しきりに謝る相手へ、威丈高になにか喚き散らしていた。
一丁、とっちめてやるか!。
腰を浮かしかけて、マカロニは思いとどまった。警察手帳も持っていなかったし、やはり今日一日は刑事であることを忘れたかった。しかし、職業意識というやつは、どうにもならなかった。ヤクザ達から、目をそらす事は出来なかった。さりげなく監視しているうちに、因縁をつけられていた若い男が、突然、ヤクザの一人を突き飛ばすと、泳ぐようなカッコでこっちへ走り出してきた。


「野郎!、待て!。」
三人のヤクザは、なおも執拗に追ってきたから、とっさにマカロニは、腰かけていた位置から、やくざのひとりの足をはらった。失踪のはずみがついていたので、そのヤクザはすっ飛ぶように補導にはいつくばった。
「てめえ、ふざけやがって!。」
たちまち仲間ふたりが、立ち上がったマカロニに噛み付いてきた。
「なめたマネしやがって、この野郎!。」
左右からつかみ掛かってきた二人へ、マカロニは猛然と躍り掛かって、的確な蹴りとパンチを送り込んだ。ふたりが「うっ!」とひるんだ隙に、マカロニは少し離れた位置で見守っていた若者を促して、路地に走り込んだ。


それかせ30分後に、マカロニは若者とMデパートの屋上にいた。ソフトクリームを舐めながら、二人は金網越しに街を見ていた。
「みんな死んでしまえばいいんだ。」
若者がふいに呟くようにいった。
「え?。」
マカロニは驚いて、若者の顔をめぐらした。
「こんな薄汚くふくれあがった街は、いっそのことメチャメチャに焼き払ってしまえばいい。そうすれば、その後にもっと住みやすくてきれいな街を造る事ができる。・・・そんなふうに考えた事はないかい?。」
「うん、おれたちの居やすい場所なんてどこにもないもんな。」
マカロニが相槌をうつと、
「俺、松川修っていうんだ。さっきはどうも有難う。」
と握手を求めてきた。マカロニも名乗って、松川の手を握り返した。行きずりというほかはない心と心の触れ合いだったが、マカロニの脳裏には、松川修の面影が、印象的に焼き着いていた。
孤独と孤独の握手か!。照れたように、マカロニは自分うちへつぶやく落とした。


翌日、早朝から署内は緊張した空気をはらませていた。第一捜査係の全員が、顔をそろえている。
「アーサー・ラインハート国連議長が、今夜遅く来日する事は、諸君もすでに知っているはずだ。そのことで、みんなに聞いてもらいたい。」
藤堂係長( 石原裕次郎)は壁にはった地図の前に立つと、一同を見渡して言った。
「今夜、羽田空港について、宿舎の帝都ホテルへはいるまでは、本庁が責任をもって警備にあたるから心配はない。問題は、明後日ひらかれる世界科学者会議に出席のため、宿舎を発ってこの道を通り、会場の東京国際会館へ向かう途中だ。8時に帝都ホテルを出て、約5分で七曲署管内へ入り、この間10分走って、隣の管内へぬける。」
地図を指さしながら説明する藤堂係長のあとを、デカ長(下川辰平)の野崎刑事が言葉をひきとった。
「つまり、行きの10分と帰りの10分、この20分間、ラインハート議長に何事もないよう沿道を警備するのが我々の任務だ。」
「チョウさん。」
石塚刑事(竜 雷太)が表情をひきしめた。
「ラインハート議長が、狙われるかもしれないといった情報があるんですか?。」
「いゃ、現在のところはありません。しかし、万一のために、署をあげて警備にあたるように、という本庁からの指令です。」
「この忙しいのに解せませんね。警備なら本庁の専門家ががっちりあたるでしょうに。」
石塚刑事はチョット不服そうだ。
「沿道の警備っていったて、どうすりゃいいんですか。砂漠の中からけし粒を拾い出すみたいに、広すぎますよ。」
マカロニも同調して不満を鳴らした。
「砂漠のけし粒か、確かにそうだ。しかし、それが刑事の仕事なんだ。事件という奴は、さあ捕まえて下さいと、お膳立てをして待ってやしないぞ。」
藤堂係長が石塚刑事とマカロニへ目をそよがせた。
「一週間前の、防衛大臣狙撃事件にしたってそうだ。大臣は幸い軽い怪我ですんだが、犯人はまだ目星すらついていないんだ。」
「しかしですね、ラインハート議長は平和主義者でしょう。同じ犯人が狙うにしてはあまりに違い過ぎるじゃないですか。」
「違ってくれる事を願いたいね。とにかく、明後日はこの管内で何事とが起こってもならない。それが我々の任務だ。」
「分かりました。それじゃ。」
石塚刑事は藤堂係長へ目礼すると、マカロニをうながして部屋を出た。


街は今日も、車と人の洪水だった。
「ゴリさんのいうとおり、大都会でまったく雲をつかむような話しですよ。殺ろうと思えば車をぶつけたっていいんだし、爆弾だって投げられる。撃つんなら好みの場所は選り取り見どりだ。なのに、何が何でも警備しろだなんて、いうことが無茶ですよ。」
石塚刑事の後について歩きながら、マカロニがブツブツと不平を並べ出した時、彼はふと、背後から誰かが、私腹のズボンを軽く引張っているのに気づいた。慌ててマカロニが振り返ると、相手は右手の人差し指を口にあてて、シィーッ!と合図を送ってきた。34.5歳、年配の小柄な男で、うっすら無精ヒゲを生やし、いかにもくたびれた洋服にドタ靴の文無しスタイルである。
「・・・!?。」
マカロニは一瞬とまどったが、ともかく石塚刑事をやり過ごすと、相手が目合図で誘うがままに、すっと路地へ姿をかわした。


「へへへ、ゴリの奴、行っちまった。」
文無しスタイルの小男が、やに臭い乱抗歯をのぞかせて笑った。
「なんだ、きみは?。」
マカロニは目を凄ませた。
「まあ、いいから、いいから、そんなに恐い顔をしなさんな、新米デカさん。」
「俺を知ってるのか?。」
「よーく知ってますよ。ジヤの道はヘビってやつでさあ。まあ、ともかく、しばらくあっしとつきあいなせえ。とびきり上等のネタがあるんですがね。」
「ネタだって?。」
マカロニは聞き返した。
「そうですよ。こいつはうまくやれば総監賞もんでさあ。どういうもんか、あたしゃヘソ曲りの刑事さんは虫が好かねえ。だから、新人のあんたにだけ、そっと教えてやろうと思って待っていたんですよ。」
「ありがとう。で、そのネタっていうのは?。」
「若いだけに、せっかちだなァ、あんたは・・・こっちは表彰もんのネタを提供しようというんですぜ。立ち話しはねえでしょう。」
「わかった。じゃ、喫茶店へはいろう。」
「それが、ちっともわかっちゃいないんだな。」
男は苦笑しながら先に立つと、店をあけたばかりの大衆食堂へ、マカロニにはお構い無しにさっさと入ってしまった。


そして、隅のテーブルに腰をおろすと、ビールととんかつを注文した。
「あっしは梶原左門といいます。この街ではちょっとは知られた顔ですぜ。」
マカロニが向かい合うと、相手はなのってから、
「明後日、なんとかって国連の偉い方が、その先の道を通るんだってね。」
と思わせぶりにニヤリと笑った。
「よく知ってねな。」
「実はあっしの知っているネタってのは、それに関係があるんですよ。というのは、あっしのよく知っている奴なんですが、そいつがどうも臭いんだ。」
「臭い?。」
マカロニは引っ張られるように、半身を卓上へ乗り出した。
「そうなんで。どうも国連の偉い方を狙ってるんじゃねえかと・・・。」
「一体、それは誰なんだ?。」
「ついてはこっちにも条件があるんですが、聞いてもらえますかい?。」
「さっきから思わせぶりばかりいってないで、早くいっちまいなよ。」
「じゃ、単刀直入にズバリ行きますが、ネタの情報提供代として六千円欲しいんです。というのは、先月分のアパート代がちょっと足りないんでね。」
「よし、それくらいなら、おれのポケットマネーを融通しよう。だが、念のために名刺をもらいたいな。」
「お安い御用でさあ。」
マカロニは梶原左門から名刺を受取ると、千円札を六枚あっさり手渡した。そこへビールが運ばれてくると、梶原はマカロニに一杯ついだきりで、自分は立て続けにコップを空けた。まもなくとんかつがきたが、一人前だけ、これも梶原はひとりで平らげてしまった。
「あー、うまかった。」
梶原は生きかえったように腰をなぜた。
「そいつの宿へ案内する前に、トイレをたしてきます。」
さり気なく立ち上がって行ったが、それきり梶原は引き返してこなかった。まんまとネタ詐欺にひっかかったことに、マカロニが気がついたときは後の祭りたった。
「チキショウ、やっぱり俺は新米刑事だ!。」
マカロニは自分をあざけりながら、やけに椅子をきしませて腰を上げた。


古参の山村精一(露口 茂)は、机に向かってぼんやりと物思いに耽っていた。かつてこの七曲署は、戦後のままの古い建物だったのが、4年前に新しい鉄筋の署に生まれ変わった。前の旧舎屋のときの部屋は、北向きでろくに陽もはいらず、机も椅子も傷だらけのものだったが、その傷ひとつにも歴史があった。例えば、机の上のキズである。それは山村刑事が刑事になりたてのころ、街のボスを挙げたところが、その子分がドスをもって殴り込んできてね乱闘したときに出来た物である。たが、今はもうその思い出は無い。かわりに、新しい歴史をつくる若い刑事たちが入ってきている・・・。
明るい光と快適な広さの中で、山村刑事は感慨にふけるのである。いかに署の建物が近代的になり、装備がモダンになろうとも、刑事はあくまでも刑事らしくなければ役に立たないと思う。刑事は世の中の人様の為に生きようとする職業なのであって、それだけの気概がなければやっていかれない。サラリーマンのように、刑事も人間だなどと“やわ”なことを言っていては、この仕事は勤まらない。凶悪な相手が社会に存在する限り、やわであってはね肝心な時に、あべこべに殺られてしまうからだ。


「おはよう。」
そこへ藤堂係長を先頭に、野崎刑事と石塚刑事が出勤してきた。
「ラインハート国連議長は、昨夜ぶじに羽田に着きました。本庁から連絡によると、今後のスケジュールは予定通りとのことです。」
山村刑事はさっそく藤堂係長に報告した。
「そうか。なにごとも無ければいいんだが。」
うなずいた藤堂係長が、椅子へ腰をおろしたとき、電話のベルが鳴った。山村刑事が受話器をとりあげた。
「はい、捜査係。」
次の瞬間、山村刑事の表情にさっと緊張のいろが走った。
「なに、ラインハート議長を狙撃するだって?。君はいったい誰だ?。」
山村刑事の声が、跳ね返るように室内へ響いた。それに反応して、藤堂係長がイヤホーンを耳にあて、野崎刑事と石塚刑事、そして徹夜明けで居眠りをしていたマカロニが、山村刑事の机へ走りよってきた。
「俺が誰かって?。フフフ、透明人間だよ。誰にも見えない透明人間さ。」
電話の声は、あきらかにつくり声だった。
「これはイタズラ電話じゃないぜ。はっきりいっとくが、おれは明日、必ずラインハート議長を撃つ。」
「なぜ、議長を?。」
「別に恨みはない。俺のライフルの獲物にふさわしい大物だからさ。」
「なにをバカなことをいうんだ。」
「冗談だとおもっているのかい。それなら冗談じゃないってことを証明してやるよ。氷川町に取り壊し中のオンボロビルがある。そこの屋上へ登ってみな。」
「そこになにがあるというんだ。」
山村刑事の声は苛立っていた。
「そいつは、あとのおたのしみさ。」
電話はそこで、ぷつりと切れた。
「どうします?。」
山村刑事は藤堂係長の顔を見守った。
「ともかく、確かめてみるしかないだろう。それにしても、狙撃を予告してくるなんて、事実としたら常識では考えられんな。」
「最近の事件は、どれもこれも常識をはみ出したやつばかりですよ。いまの電話だって、ライフルの獲物にふさわしい大物だというのが、理由ですからね。」
「よし、すぐに現場へ急行してくれ。」
藤堂係長は、島刑事(小野寺 昭)・石塚刑事・マカロニの若い三刑事を指名した。


それから30分後に、老朽ビルの解体工事現場の近くへ乗り付けたセダンとジムニイから、三人の刑事が降り立った。すでにビルのほぼ半分が崩れ落ち、巨大な鉄アレーが激突するたびに、破壊音と砂煙がもうもうとあたりに立ち込めていた。
「屋上へ上がってみよう。」
ビルの残骸を見上げて、石塚刑事が顔へ緊張をみなぎらせた。
「俺が行くよ。」
マカロニが安全帽の紐をしめて先に立った。梶原左門に一杯食わされたマカロニは、少々あせり気味だった。
「こういう時にはな、先輩に任せとくもんだ。」
「だって、なにが起こるかわからないですよ。」
「だから、お前さんみたいなそそっかしいのには任せられないのさ。」


石塚刑事が崩れかけた階段を登り始めると、マカロニは身軽く後を追って、石塚刑事をたちまち追い抜いてしまった。
「こういうときは、一番身の軽いやつに任せるものさ。」
十段ほど一気に駆け上って、いたずらっぽくマカロニが振り返った途端、鉄アレーがまたしても柱を叩いた。その振動で、マカロニの足元が不安定にぐらついた。
「気をつけろマカロニ!。」
石塚刑事があたりへ気を配りながら、怒鳴った。


三人ともまだ気づいていなかったが、砂ぼこりの舞う瓦礫の影に身を潜めて、このとき、ライフル銃を構えている若者がいた。銃口とスコープが、一瞬、マカロニをとらえたようであった。光軸指示線の中央に、マカロニの顔がアップされた。
「・・・!」
若者の表情が動揺した。犯人は意外にも、松川修だった。


だが、松川の姿に気づかないマカロニは、なおも階段をのぼりはじめた。ちょうど、6階ほどの高さにのぼりつめたとき、マカロニはギョっとして足を停めた。すぐ左手の空間に、首を紐でくくられた人形が、屋上から吊るされていたからである。
「誰だ!、悪いイタズラはよせ!。」
屋上へ視線をあげて、マカロニが鋭く声を掛けた刹那、鉄アレーがまたしても響音を響かせた。と同時であった。銃声がさらに響音を裂いて、人形の胸をぶちぬいた。
「どこだ、出てこい!。」
しかし、その返事は、ライフルの発射音だった。あっ!、とマカロニは、左手の甲を押さえてその場へ突っ伏した。弾丸は幸いにも指の間をかすっただけで、キィーンと焼いた匂いを散らして階段へ跳ね返った。
「早見、気をつけろ!。」
「あとは俺たちがやる。」
石塚刑事と島刑事は拳銃を抜くと、二手にわかれて銃声のした方角に走った。


松川修は屋上にいたのではなく、ビルの裏側の逃げやすい瓦礫の影に身を潜めていた。


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